イネの高温障害について


近年の温暖化傾向
近年の温暖化傾向

 高温障害

 

 日本では日照りに不作なし言われるほど、日照が多いか少ないかでコメの作柄が左右されてきました。しかし、近年異常高温が頻発していることで、日照りであっても気温が高くなり過ぎる(特に夜間)と、期待したほど収穫が上がらず、品質はむしろ、著しく低下するという現象が発生している。

 

 温度が昼間35℃夜間30℃程度を越えると、

 

稲に高温障害が発生する可能性があります。高温になると、吸水が蒸散に追いつかずに、しおれて枯れる場合があります。また、蒸散を防ぐために葉の気孔が閉じます。気孔が閉じると光合成も停止し、生育が止まって、根が弱って倒伏しやすくなり、やがて枯れてしまう場合があります。

 

 夜間の高温は、稲の呼吸作用を増加させます。

 日中に生産したデンプンが呼吸で消費されてしまい、穂や根に送り込む量が少なくなり、登熟歩合の低下、乳白米(白未熟粒)発生の原因となります。

 人間が熱帯夜で睡眠不足になると体力を消耗するのと同様に、コメも暑さにやられると品質が低下します。

 連日の猛暑による異常高温は、高夜温に伴う呼吸の増大光合成産物の転流効率の低下炭素・窒素栄養供給バランス異常登熟種子中の糖代謝や機能タンパク質発現の異常など,様々な要因が複雑に絡み合って高温障害が生じます。この異常高温は、不稔(ふねん)による減収や品質低下に結びつき、一部で立ち枯れが発生する恐れがあります。  

≪ 補足説明 ≫

 稲は気温が30℃以上になると光合成ができず、十分にでんぷんをつくることができません。熱帯夜など夜まで気温が下がらない気象が続くと、稲が本来蓄えるべきでんぷんを使い切って、スタミナ切れのような状態になってしまいます。このような高温障害の影響を受けた米は、高温登熟による白未熟粒の発生が多くなり、整粒に実っても 細長くなってしまったり小粒になりがち です。

 炊いてみても、水分が米粒に均一に吸収されず、表面付近に残ってしまう傾向にあるため、どうしても美味しく炊きあがらないのです。

 全国的に温暖化の影響は顕著で、稲穂が実る時に高温が続いてしまうと未熟米が発生しやすくなるなど、米質が低下します。高温登熟の状態化は、同じ産地品種でも味のバラつきが多い。とくにコシヒカリは総じて米質が低下し、同じ産地でも登熟のバラつきによる食味の低下が目立つようになっています。このような米は、炊きたての味はあまり大きく変わらないが、保温経過が進むほどに、粘りの低下が起こります。

 


猛暑でイネに何が起きているか!(17・22・24年・25産米)

玄米の外観品質による分類
玄米の外観品質による分類

 

玄米の白濁化 ≪白く濁ったお米≫

 

 これは、通称「シラタ」、正式には「粉状質粒」と呼ばれているお米で、お米が実る際の初期から中期に高温条件や低日射量(日照不足)などに遭遇すると発生する高温障害の一つです。

 

 白く濁って見えるのは、種子が稔る時期に高温に遭遇すると、通常のお米と比べて稲のでん粉合成酵素の活性が阻害され、米粒の細胞中のデンプン粒の充填(デンプンの蓄積が不足(異常)したこと)が不十分となり空気の隙間が残ります。細胞内(お米の内部、デンプン粒とデンプン粒との間)空気の隙間ができ不透明になって光を乱反射るため白っぽく見えます。空気の隙間ができるため、米質ももろくなっているので「粉状質粒」といわれます。精米に加工する前の玄米では「白未熟粒」と呼ばれます。

 

 稲の成長の初期に高温

(出穂後20日間の日平均気温が23-24)を超えると白未熟粒が多く発生し、27を超えると発生歩合が20%以上増えます。

 27では「背白粒」「乳白粒」が発生し始め、背白粒30乳白粒33で多発し、36では「死米」が多発します。また、出穂後4-12日頃の高温(昼/夜温=36/31℃)では死米、4-20日頃では「乳白粒」、16-24日頃では「背白粒」がそれぞれ多発します。

 

 したがって、お米が白っぽいのは、「新米」とか「古米」「もち米」とかは、関係ありません。お米が古くなったものだと間違われますが、お米の新古やお米の保存方法とは関係がありません。ただし、乳白粒があまりにも多いと食味も良くなく、柔らかいので水分吸収率が高く、炊くとベチャつきの原因になります。

 白っぽい米は、農薬の影響を受けたり、悪い物質を含んでいるということはなく、普通のお米と同じで食べても全く問題ありません。 

 


乳白粒
乳白粒

乳白粒は、 <横断面にリング状の白濁>

玄米を側面から見て、全体の2分の1以上が白濁している場合は「乳白粒」に分類されます。乳白粒の横断面を見ると、中心部を含む円形あるいは楕円形の白濁が観察されます。しばしば、中心部が透明化しているリング状の白濁も観察されます。

 

乳白粒の発生率は、出穂だけではなく出穂前20日間の平均気温・最低気温に関係します。

通常は、種子の中のデンプンが蓄積し、透明な健全粒になります。ところが登熟期に猛暑にあうと、葉の光合成で作られた糖からデンプンを合成する能力が低下するとともに、作ったデンプンを分解するα-アミラーゼの働ききが強まります。このことが、胚乳におけるデンプンの蓄積を低下させ、乳白粒が発生する原因になっています。


心白粒
心白粒

心白粒とは、 <横断面の中心部が白濁>

玄米の中心部が限定的に白濁している場合は「心白粒」に分類されます。横断面に腹側から背側にかけて線のように白濁部が出現する線状心白と、中心部に白濁がある眼状心白に分かれます。後者は乳白粒に似ていますが、白濁部が小さい。


背白粒
背白粒

背白粒とは、 <背部維管束に沿った白濁>

玄米の胚を下にして立てた際に、胚がある側を腹側、反対側を背側と言います。「背白粒」は、文字通り背側が白濁した粒を指します。なお、白濁部分が細く軽微な場合は背白粒とはみなされません。白濁部分の長さが玄米の長さの3分の2以上あり、幅が玄米の幅の3分の1以上の場合に背白粒とみなされます。

(登熟中~後期に何らかの問題が発生している)


腹白粒
腹白粒

腹白粒とは、 <腹側に半円形の白濁>

背白粒と反対の腹側に白濁がある場合は、「腹白粒」と言います。腹白粒では、背白粒のような細長い白濁になることは少なく、長さ方向の中位の位置に、集中した白濁を呈することが多いです。白濁部分の長さと幅の定義は背白粒と同じです。

(腹側の周辺部分細胞層でデンプン集積が悪く、それにより微小な空気スペースが多くできるために乱反射で白く見えます。)


基部未熟粒
基部未熟粒

基部未熟粒とは、 

玄米の胚を下にして立てた際の下側を玄米の基部と言いますが、基部に玄米の長さの5分の1以上にわたって白濁がある場合は、「基部未熟粒」に分類されます。基部未熟粒も、断面を見ると背側が白濁しています。

(基部未熟粒の発生率は、出穂後の平均気温・最低気温に関係がある)


胴割れ粒
胴割れ粒

胴割れ粒とは、

米粒に亀裂が入ったもの。

 

登熟が進み含水率が低下して硬度の増した米粒において、降雨や晴天などにより水分の吸収や放出が急激に生じた際に米粒の部位別膨縮差が大きくなり、粒内の応力分布の不均衡が増大することによって発生します。


完全米(水稲うるち玄米)
完全米(水稲うるち玄米)

完全米とは、

 

登熟が完全に行われ、その品質の特性である粒形をしっかりと持つ米粒を「完全米」という。完全米は豊満で,左右,上下均整の取れた形で、籾殻内いっぱいに肥大し、側面の縦溝が浅く,うるちでは全体が透明で表面が光沢を持ちます。


  1. 背白米は,出穂後20日間の平均気温27℃以上で発生し、28℃以上で多く発生します。
  2. 乳白米心白米の発生は、台風による倒伏日照不足が影響します。
  3. 基白米は、全期間高温処理した場合に著しく発生が多いです。 

 背白米、基白米は、出穂後20日間の平均気温(以下、登熟温度)27℃以上の高温条件で発生し、それ以下の温度では、いずれもほとんど発生が認められません。また、背白米は、同一の高温条件下において、日射量が多いほど、また湿度が高いほど、発生割合が高くなります。日射量と湿度は穂の表面温度と密接に関係しており、同じ高温条件下においても、高日射や高湿度条件の場合に穂の表面温度が高くなり、結果として背白米の発生が多くなります。 

高温障害

  • 登熟期に27℃以上の高温が続くと,乳白米など白未熟粒が生じ,籾の充実度が落ちる現象.
  • 受精障害: 開花期の高温による不稔の発生
  • 登熟障害: 登熟期間中の高温による未熟粒および白濁粒の発生
  • 白未熟粒: 乳白粒心白粒基白粒背白粒腹白粒の総称
  • 要因
    • 登熟期気温の上昇
    • 出穂期の前進と盛夏との重なり
    • 分げつ期高温による籾数過剰
    • 少肥化傾向による登熟期の窒素栄養不足
    • 地力低下や作土層浅耕化など土壌管理の影響
    • 登熟期の早期落水傾向
    • 作付け品種,経営規模など営農的要因
    • 圃場の気象・用水環境の変化

発生

  • 登熟初期の高温:
    • 胚乳のデンプン合成酵素の活性を低下させ,でんぷん合成機能に直接障害をもたらす可能性がある.
    • 開花後9~13日の間に昼温35℃夜温30℃の高温処理するとでんぷん合成酵素の活性が低下する.
  • 高夜温に伴う呼吸の増大,日射不足,窒素含量の低下,水不足,倒伏等は養分需給の不均衡を生じさせるため高温障害の発生を助長させるとされている.
    • 高温下での玄米の急激な成長に伴う強い養分要求に対し,栄養器官から養分の供給量の不足が生じる.
    • 胚乳の一部にでんぷん集積の不良な箇所ができ,不透明化する.
    • 高温を受ける時期,もみの穂上位置,成熟順序,品種特性等によってその種類が変化する.
  • 白未熟粒は登熟初中期(出穂5~15日後)の高温により発生しやすい
    • 最終粒重の約25%まで登熟が進んだ時期の感受性が高い.
    • 出穂後20日間の平均で最高気温32℃,平均気温27-28℃,最低気温23-24℃を超える高温条件となると1等米比率の著しい低下がおきる.
    • 一般的に夜温(最低気温)の影響が大きいと見られている.
  • 移植時期が早いと白未熟粒が発生しやすい生育ステージに高温に遭遇する確率が高い.
  • 高温下での白未熟粒の発生には品種間差がある.
  • 一般に面積当たりのもみ数が多いほど白未熟粒が発生しやすい.
  • 登熟の早期に落水すると白未熟粒発生程度が増大する.

 

【質問】

地球が温暖化すると、

お米の品質は低下してしまうのですか?

 

公益社団法人 米穀安定供給確保支援機構

米穀機構 米ネット」 お米Q&A より

 

国立大学法人新潟大学 農学部応用生物化学科

教授 大坪研一


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